獣城下まち金沢周遊バス

　世の中にクイズチャンピオンは数多かれど、純粋に「クイズ王」と呼ばれるのは「史上最大！アメリカ横断ウルトラクイズ」の歴代覇者だけだろう。その人数はたった１６人（その後の特番を入れると１７人）しかいない。
　「埼玉県庁の職員にもマラソンの川内優輝さんのような人が出てきてくれたおかげで、私の活動も随分と理解してもらえるようになりましたね」
　１９９１年、第１５回ウルトラクイズで優勝したとき入庁１年目だった。東京ドームの予選を通過後、成田から決勝の地であるニューヨークまで約１カ月の旅。チェックポイントを通過するたび、職場の上司に「もう少し休みます」と連絡を入れる日々が続いた。
　「今でも『そのときの職場はどんな感じだったか』と聞かれるんですが、それ自体が２７年間、延々と続く罰ゲームのようなものです。あのときは勝ち抜ける高揚感もありましたが、１年目の若造が１カ月近く休んでいるんですから、申し訳ないという気持ちと、帰国したら新しい仕事を探さないといけないかもという不安ばかりでした」
　しかし、２７年前の優勝は、いまだファンの間では語り継がれている。
　「小学生のころから夢見ていたクイズ番組で優勝できたことが、その後の自信にはつながっているでしょう。でも、クイズの世界には上には上がいるし、仕事の現場で迷惑をかけたという思いもありますし、『実るほど頭を垂れる稲穂かな』を教訓にしています」
　クイズの面白さに触れたという記憶が鮮明なのは小学５年生のときだ。第３回ウルトラクイズをみて、クイズに答える挑戦者の姿がかっこいいと思ったという。そこからはまっていった。
　「当時はアップダウンクイズやタイムショックなどたくさんクイズ番組がありましたから、それをみて、知識を増やしていきましたね。教科書だって見ようによってはクイズの参考書。だから読んでいるだけでも楽しかった。勉強をポジティブにとらえることができたのは、クイズのおかげでしょうね」
　クイズに向けた勉強を続けると“クイズ脳”になっていくという。さまざまな分野に対して感性が敏感になっており、インプットに対してすみやかに情報をアウトプットできる状態になっていくのだ。
　「今でも訓練を怠れば『あれ何だっけ』と記憶を引っ張り出すことになりますが、日々の生活でつねに意識していれば、次第に“クイズ脳”になっていきます。確かにクイズ王になったころが一番ピークだったかもしれないが、７～８年前にテレビ番組用に勉強したときも結構、頭の回転はよくなりましたよ」
　この“クイズ脳”は決して特異な体質ではないという。誰でも鍛えればなれるというのだ。
　「早押しの訓練をして思い出すという作業を繰り返すことで、記憶を引き出しやすくなるんです。クイズに出るかもしれないと思いながら、新聞を読むことも頭の訓練になりますし、高齢の方にも効果があるんじゃないかと思うんです」
　現在の職場は食品ロスの削減にかかわる業務を担当している。企業などに協力を求めるため出向くことも多いが、「クイズ王ということで窓口をつないでもらいやすいのは確かですね」とも。
　さらに最近では、今年で７回目を迎える「埼玉クイズ王決定戦」で問題監修も務めている。今年も１０月末から予選が始まり、来年２月に決勝戦が開催される。
　県観光課などが、クイズを通じて埼玉の魅力を知ってもらい、関心と愛着度を高めてもらおうと開催するイベント。
　「予選と本選含めて４００問ほど準備しますが、小学生でもちょっと頑張ればできるようなレベルながらも、簡単すぎても面白くない。埼玉に命をかけている人たちが集まりますからね。問題を作るのって本当に難しいですよ」というように、自身も休日になると新聞や雑誌から埼玉の情報収集に費やす日々だ。
　そこまではまるクイズの魅力とは何だろう。
　「もちろん知識が増えるという楽しさはあるでしょうね。そして、答えが分かったとき、人より早くボタンを押すと注目される。そこで正解すると拍手ももらえる。普通の人で、注目されて拍手されるなんてそうそうない。だから楽しいのかもしれない。『クイズ問題は世界一短い推理小説だ』って、ある人が言っていたんですが、まさにその通りですね」（ペン・福田哲士　カメラ・飯田英男）
　■能勢一幸（のせ・かずゆき）　第１５代クイズ王、埼玉県庁職員。１９６９年１月１日生まれ、４９歳。埼玉県出身。現在の職場は県環境部資源循環推進課。一橋大卒業後、９１年に入庁。同年、「史上最大！第１５回アメリカ横断ウルトラクイズ」で優勝した。その後も「クイズ王」として、多数のクイズ番組に出演。２００１年には「クイズ＄ミリオネア」で１５問連続正解し１０００万円を獲得した。